ホルムズ海峡の封鎖と売買契約上の問題 – FOBとDAP

ホルムズ海峡の「事実上の」封鎖や空母などの米軍艦艇の臨戦態勢をめぐり、石油やナフサ、LNGなどの諸エネルギー調達に重大な懸念が生じ、マーケットは大きな混乱となり、WTIは100ドル/バレルを超え、日経平均は5万円も切りそうな勢いで下落、対ドルでは160円/$を超え日銀からも「そろそろ見過ごせない」というシグナルが出てきました。

石油やナフサ、あるいはLNGの売買当事者で売主買主のいずれが海上封鎖リスクを負担するのか、という質問があります。勿論契約書には詳細が定められているので具体的な事案ごとに精査を要しますが、その前提で基本構造だけコメントしておきます。

トレードタームをまずはご確認ください中東産オイルタンカー積みの場合、伝統的にFOB(free on board)、つまり船積み時点で「リスク」が売主から買主に移転する仕立てになっていることが多いと思います。「リスクの移転」は海上運送保険と連動しており、「被保険利益」が買主側に発生しますので、買主側の保険約款でWar & Strike Clasue (戦争・ストライキ対応の特別約款)で復活担保されているかご確認いただくのが基本です(「カーゴ自体の損害」か、カーゴ自体ではなく「かかった費用(の損害)」かは扱いが違うので注意)。

他方LNGの場合、カタールなど中東産は米国産と違ってDAP(delivered at place)などを選定していることが多いと思います。これは配船手配を売主側が支配することによる価格支配権の確保を目的にトレードタームを売主側に有利にしようとする意図ですが、同時に「リスク」危険負担の移転時期が仕向地での荷卸し前になりますので、今回のようにホルムズ海峡が封鎖されている状況では危険負担の点では売主不利買主有利となります。なお当事務所が扱ってきた米国産LNGの場合、仕向地制限を解除したFOBトレードが多く(商社ものはExShip、インコタームズ®2020ではDAPに類似、を見ますが)、最近は中東物でも米国産との競争の関係で「仕向け地制限の緩和」傾向ではありますが、伝統的にはDAPベースです。

以上トレードタームベースの基本ですが、トレードタームの基本スタンスを特約で変更していることは実務上まま見られるので、繰り返しますが詳細は契約書の精査が必要です。ご注意ください。

最近ホルムズ海峡を中国やパキスタン、インド船などが通過したという報道があり、日本海事新聞本日(2026/3/31)記事引用の英クラークソンズ・リサーチが28日に発表した週間リポートによると、同日までの1週間に40隻超の船がホルムズ海峡を通航したとされます。これらの船舶がイランの革命防衛隊が取り仕切る所謂「安全回廊」を通航しているのか否か判然としませんが、イラン側との協議によって安全に通過できるということになれば現在議論中のFM(フォースマジュール)や船長の通峡拒否判断に影響が出そうです。ただ、「ホルムズ海峡通行料」を課するという議論がイラン内にあるとのことなので、もし通峡に関してこれの支払いを条件にされた場合には、物理的には安全に通れるとしても、米国の対イラン制裁法令に反したということで本船がテイント(法的に「汚染」)されたものとなって以降の運航に支障が生じうると予想されるので、日本船主や傭船者は慎重にならざるを得ないだろうと見ています。

フーシ派が参戦意向を示したのでホルムズ海峡を経ない「紅海ルート」も危険になりそうで、なおスエズ運河経由喜望峰周りルートはありますが、多大な運航コスト(傭船料の負担など)の問題が生じえます。FMの議論もありますが、もっと手前でまずはトレードタームと連動してどのように売主買主間で負担をシェアしているか、傭船契約書も睨みながらよくご検討いただくのが良いと思います。

(2026年3月31日記)

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