所長雑感

下記「US-built」の論点についてUSTRのコメントを得ました

協力して案件を担当しているボストンの米国法海事弁護士を通じて下記論点についてUSTRのコメントを得ることができました。結論としては「2028年から」も「2029年から」も正解。理由も聞きましたが非常にテクニカルで一般読者の誤解を避けるためにここでの詳細は避けますが、下記USTR発表の書き方でそういう読み方をするのか、とは感じた次第です(当該米国の先生たちも海事関係者らとこれをちょうど議論中だったとのことなので弊職だけの疑問ではない、と)。なお、この問題に関する「US-built」はカボタージュ制度で有名なJones Actのそれとは違う、もっともっとstrictだ、というコメントももらっています。

(2025年4月25日記)

USTR 2025年4月27日発表についての追記

注目されている米国建造LNG運搬船の使用義務の件ですが、その後の報道には当事務所が報告するように2028年から、とするものの他に2029年(4月)から適用、というものも見られます。この点についてですが、問題のUSTR公表資料(Billing Oder 3390-F4。4月23日付Federal Register/Vol.90. No.77参照)Annex IV (Restriction on Certain Maritime Transportation Services)に規制の開始タイミングがリスト表示されており、その(f)(Schedule of Restriction)に米国産LNG輸出に使用すべき米国建造運搬船使用比率が次のように定められています:

For all LNG intended for exportation by vessel in a calender year, the following percentage must be exported by a U.S.-built vessel that meets the requirements described as follows:(1)…(2)…(3)… (4) From April 17, 2028, to April 16, 2029: one percent on U.S.-flagged and U.S.- operated vessels. For every subseuent year, the following percentages are exported by U.S.-built, U.S.-flagged, and U.S.-operated vessels: (5) From April 17, 2029, to April 16, 2030: one percent….(以下省略).

上記の記載内容はやや曖昧で、確かに米国建造船使用要求は(5)からとも読めそうです。ただ、条文柱書の黒字部分(筆者が強調のため黒字で表示)は(4)の期間にもかかるので、2028年から米国建造LNG運搬船使用を段階的に義務付けるのがUSTRの意図に見えます。いかがでしょう。

その他色々曖昧な規定があります。ロングタームの巨額投資を求める話の割には米国当局の起案や理解に整合性があるのか疑問もあり、そもそもLNG運搬船建造造船所を完成させてからLNG船建造にどのくらいの期間かかるのかという実現可能性も疑問があるので、ご存じの通り政策方針が朝令暮改状態の下では今後とも慎重な検討を要するものと思います。

(2025年4月24日記)

USTR の2025年4月27日発表について

米国産LNGの輸出について2028年以降米国建造・籍LNG運搬船の利用を一定量(段階的に)義務付けるUSTR 301条措置が4月17日に発表されました。既にお知らせした公聴会を経て、米国での建造能力が無い現時点ではさすがに無理ということで段階的措置とされました。そのため「緩和された措置」との評価が報道では見られます。韓国造船社による米国での一般商船建造投資の話は出ていますが、LNG運搬船(弊職が扱い始めた頃は新造船一隻USD200milくらいが相場でしたが、最近はUSD250mil前後)に関してはこれを米国内で建造するには膨大な先行投資と人材・技術の集約を要し、米国政府の政治的コミットメントが不安定な中では実際の投資決断は非常に困難かと思います。Chicago風に言えば、”Understsndable, Understandable, Its ambition is perfectly understandable, but … can you make a very long-term commitment?”

このUSTR発表は既存プロジェクトの取り扱いなども詳細が不明で、今後も連携先米系法律事務所と協力して適用法令や契約条項の適用解釈について注目していきたいと思います。

(2025年4月19日記)

大統領令4/9について

先ほど出された「相互関税90日間ストップ」で株式市場は大きな変動となり、こちらの方はあまり一般的な報道では注目されていませんが、先ほど出されたホワイトハウスのHPでの発表を見ると、先日懸念を示した米国産LNGや穀物などの輸出を米国籍船に限定するという指示は出ておらず、3月末に連続して行われた公聴会を踏まえて先日「BIMCOレター」で紹介した論点に関してはひとまず大丈夫のようです。ただ、今回の大統領令では貿易における中国建造船の大数に比し米国建造船がほとんど存在しない点に強い不満が示されていて、米国造船産業に注力すべくSecretary of Defenseに指示していますし、USTRに対しては中国造船に関して独禁法違反への対応勧告を求めているので、中国建造船に対する米当局対応は今後も注意すべき論点です。なお、輸入品経路に関してメキシコやカナダ経由での港湾維持費(Harbor Maintenance Fee)と「その他のチャージ」の潜脱を防ぐようSecretary of Homeland Security(国土安全保障長官)に指示しているので、チャージの適用関係と輸送のために調達する本船ルートには注意をする必要があります。

(2025年4月10日記)

BIMCO レターについて

米国産LNGや穀物を米国建造船に限るというトランプ政権の案は今週公聴会を経ていますが、現在の米国での建造能力に照らし非現実的です。ご参考までに3/17付でUSTRに提出したBIMCOレターの関連部分を試訳しました:

引用開始:

「….米国の原材料輸入の輸送コストの上昇は、そのような商品は相対的に価値が低いため、高価値の輸入品よりもはるかに大きな影響を受ける。 この影響は、より多くの原材料を必要とする国内生産の増加など、米政権の他の表明した目標に逆行するものである。 提案されている措置の一部は、米国の輸出に関するものである。 これに関しては、米国で建造され、米国船籍を持つ船舶の建造と運航を活性化させたいという要望がある。 しかし、提案されている輸出要件を満たすために現在利用可能なトン数(注5)は、数、サイズ、種類ともに限られている。 もしあったとしても、年間、暦年あたりの米国輸出のシェアが、米国で建造され、米国船籍を持つ船舶で輸送されることが要求される20%を満たすことを証することができる海運業者はほとんどないだろう。 これは事実上、実施後の米国輸出がほとんどできないことを意味する。特にエネルギー輸出、特に液化天然ガス(LNG)は、米国で建造され、米国船籍を持つLNG船が就航しておらず、発注中もない。 将来、米国籍船で米国輸出を行うことが現実的かどうかは、本コメントの範囲外である。 米国の造船業は長い間競争力を失っており(注6) 、それは世界の船隊における米国の建造トン数の不足が証明している。 しかし、米国籍船で米国産輸出貨物を輸送することが義務付けられ、そのような船腹が利用可能になれば、輸送コストが大幅に上昇し、世界市場における米国産輸出貨物の競争力に影響を与えることになる。 まとめると、提案されている措置は、米国の輸出入に輸送コストの大幅な増加をもたらし、米国経済全体に悪影響を及ぼす。」

引用終了:

日本建造LNG(運搬)船(dual-fuel) を扱いましたが、性能への評価が高いので、日本建造船をお勧めしたいと思います。

個人的にはモス型が好きです。

(2025年3月27日記)

日鉄社によるUSSへの「投資」について

2025年2月10日、トランプ米国大統領は、石破総理の訪米会談後、日鉄社によるUS Steelへの「買収」ではなく「投資」である、「誰もUSSの株式の過半数株式は得られない」とエアフォースワンでのインタビューで答えていました。どのような「投資」スキームにするのか日鉄社関係者もこれから思案するのでしょうが、米国内にSPCを設立し、そこにUSSの事業を切り出し、同時に日鉄社からの大きな出資と技術供与で対応するのも一つの案かなと考えました。

頑張ってください。

(2025年2月10日記)