法律意見書について

当事務所所長がロンドン大学在学中、著名な英国法ソリシターPhilip R. Wood教授の講義があり、そこでは法律意見書(プロジェクトや融資案件などで投融資を完了させるために必要とされ、弁護士が金融機関などに提出するもので、クロージング・リーガルオピニオンと言われるもの)作成所作について学ぶことができました。以来、実務では海外案件に関わる日本企業の親会社保証に関するオピニオンを中心に様々な案件で作成提出してきましたが、他方でトルコ弁護士など英米以外の弁護士が提出してくる法律意見書も吟味する機会があり、各国法の影響や取り組み案件の特性(提出依頼者の特殊な希望が反映されたものもあります)に応じて様々な変化変容があることは大変興味深いところです。

日本では法律意見書について体系的研究が不足しています。これを踏まえて2013年に商事法務社から「法律意見書の読み方」を出版しています。これは同社NBL(New Business Law)誌にタイタニック号遭難事件、福島原発賠償問題、超円高、ギリシャ・デフォルト危機、上場企業巨額不正会計、海運オペレーター倒産など、混迷の時事の出来事をベースに歴史的な視点を交え、主として法務部で活躍する若いインハウス・カウンセルを読者に想定しつつ半年間連載した小稿を取りまとめ、更に出版にあたり新たな執筆稿(「特殊な意見書:担保意見書、稟議:北極海航路、近未来2015年 – 巨大LNG船『モスラ』SOS!」。当事務所の名称はここで登場させた架空の「大海原」海事弁護士に因みます)と法律意見書(クロージング・オピニオン)英文サンプルを添付したものです。

本書はPhilip R. Wood教授の講義へのオマージュですが、同教授の講義が法律事務所勤務弁護士向けの法律意見書作成留意事項であるのに対し、筆者がインハウス時代に得た経験を踏まえ、視点を法律意見書の起案を受領するインハウス・カウンセルに置き、例えば社内稟議に適合しない留保事項(reservation)が含まれていた場合の対処などに言及するものです。小宮編集長(当時)はじめスタッフの方々に甘えて法律書としてはかなり奔放に書かせていただいたので、当時から評価は分かれていたようですが、Business Law Journal 2014年2月号特集「法務のためのブックガイド2014」で、現在M&A案件などでご活躍の柴田堅太郎弁護士(当時長島・大野・常松法律事務所所属。2025年1月現在、柴田・鈴木・中田法律事務所パートナー)による「ベテラン法務パーソン・弁護士の経験に学ぶ」稿中の「具体的スキル」編で推薦図書二冊のうちの一つとしてご紹介いただいていたことに気付きました。

なお、その後、中央経済社のご要請により「ビジネス法務」2021年12月号に「『クロージング・オピニオン』の読み方 -初心者のための実務的留意事項」を寄稿しています。